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漁獲・陸揚げデータや証明書の必要性と課題

水産物輸出において、漁獲・陸揚げデータや証明書を求める制度

 米国は、2018年1月から水産物輸入監視制度(SIMP)を開始しました。この制度により、マグロ類・カツオなど特定魚種(缶詰等加工品を含む)の製品を米国に輸出する場合には、その製品の漁獲・陸揚げ段階の情報を提供することが必要になりました。

 また欧州連合(EU)は、2010年1月から、水産物(養殖水産物などを除く)を輸入するにあたり、漁獲・陸揚げ段階の情報を含む「漁獲証明書」(catch certificate)の提出を求めています

 韓国、タイ、インドネシアのようなアジアの諸国にも、法令を定め、輸入する水産物に対して漁獲証明書の提出を要求する動きがあります。 さらに、クロマグロなど一部の魚種においては、地域漁業管理機関がルールを定めており、輸出にあたり、漁船旗国の政府機関によって確認された漁獲証明(catch document)を添付することが必要です。

 これらの制度はいずれも、水産資源の持続可能性にとって大きな脅威となる IUU 漁業(Illegal(違法)・Unreported(無報告)・Unregulated(無規制)で行われる漁業の略称)を防止・廃絶することを目的としています。

「輸出のための水産物トレーサビリティ導入ガイドライン」

 これらの制度に対応し日本から輸出するためには、輸出製品の元になった水産物について、「いつ・どこで・どの漁船が漁獲したか」、「いつ・どこで陸揚げしたか」、「誰から誰に製品が流通したか」などの情報を、漁獲(養殖においては収穫)から輸出までの各事業者が記録し、輸出先国の輸入業者又は日本の政府機関に提供することが必要になっています。

  こうした状況を受けて、2018年3月、水産庁の委託事業により「輸出のための水産物トレーサビリティ導入ガイドライン」が発行されました(現在、その改訂版が水産庁webサイトで公開されています)。このガイドラインは、漁獲・収獲から輸出までの各事業者に対し、漁獲・陸揚げ情報の提供を含めトレーサビリティに関して取り組むべき事項を示しています。

日本の国内市場におけるトレーサビリティや漁獲証明の要求

 輸出する場合だけでなく日本国内の流通においても、食品安全上の問題が起きた場合の対応や、産地表示が正しいことの確認のために、水産物のトレーサビリティ確保は重要です。

 日本にはこれまで、水産物の取引においてトレーサビリティを求める法的制度はありませんでした(食品衛生法や食品表示基準において、事業者に記録を保存する努力を求めていますが、罰則はありません)。このため、国内で密漁された漁獲物を使った商品がひとたびサプライチェーンに入りこむと、市場から排除するのが困難です。

 日本政府は、2018年6月に「水産政策の改革について」を定め、漁業法改正(2018年12月公布)を含む改革を進めています。その一環として、水産庁は2019年9月に「漁獲証明制度に関する検討会」を設置して、漁獲証明に係る法制度の検討を行っています。2020年4月に開催された規制改革推進会議 農林水産ワーキング・グループでの農林水産省提出資料によると、密漁等の違法漁獲が懸念される魚種を対象とする「国内漁獲証明制度」と、IUU漁業による漁獲懸念のある水産物の流入を防ぐ「輸入水産物の漁獲証明制度」の両方を法制化する方針が示されています。

  「国内漁獲証明制度」においては、登録証明機関が漁獲証明を実施して漁獲物に漁獲証明番号を割り当てること、漁獲証明済みである旨を表示すること、すべての取扱事業者が漁獲証明番号等を含む購入記録と販売記録を保存することなどが検討されています。今後は「検討会での最終とりまとめを経て、制度化に向けた作業を進めていく予定」とされ、事業者への要求事項が決定になるのは少し先になりそうですが、各事業者は新たに、取り扱った商品の漁獲証明番号等を記録・伝達する手段の確保が必要になりそうです。

 また、「輸入水産物の漁獲証明制度」においては、「漁船名、漁船の登録番号、漁獲水域、魚種、重量、水揚げ年月日」が記載された漁獲証明書の添付を求める方針です。EUの事例を踏まえると、日本の漁船が国内で陸揚げした水産物に関しても、いったん輸出されて外国で加工され再輸入する場合には、漁獲証明書が必要になるのではないかと考えられます。

IUU対策以外の諸外国の証明書への要求

 

ここまで、IUU漁業の対策としての漁獲証明制度を紹介してきましたが、漁獲・陸揚げ段階の証明書を要求する制度はほかにもあります。(※衛生証明書については、漁獲・陸揚げ段階の情報を必要としない場合が多いので、ここでの説明から省きます)

 

 米国のドルフィンセーフ認証は、米国の法律に基づく認証制度です。現在の米国の制度では、「ドルフィンセーフ」の基準を満たさなければ、事実上、カツオ・マグロ類を米国に輸出することができません(生鮮品は対象外です)。カツオ・マグロ類を「ドルフィンセーフ」として米国に輸出するには、米国NOAAが定める様式「漁業起源証明書」(Fisheries Certificate of Origin)と、それに対応した「船長による保証陳述」(Captain’s Statement)を提出する必要があります。

 

  2011年3月の原発事故に関わる規制のある国・地域に対して輸出する場合には、政府機関等による産地証明書を求められる場合があります。この産地証明書を発行してもらうため、天然の水産物の場合、産地市場荷受・漁協による「販売証明書」が使われています。

 

 ワシントン条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約))の付属書Uに掲載された動植物種の製品を輸出する場合には、政府機関(日本の場合は経済産業省)による承認が必要です。その承認を申請するために、「販売証明書」が求められます。

漁獲・陸揚げデータや証明書の要求に対応するうえでの課題

 以上述べてきたように、さまざまな国の法令や条約に基づいて規制が設けられ、さまざまな様式の証明書やデータの提供を、産地市場荷受・漁協や漁業者が求められるようになりました。

  これまでの日本の水産物流通における情報伝達は、伝票が中心で、電子的な情報伝達はあまり行われてきませんでした。一方、多くの産地市場荷受・漁協では、販売結果を計算し漁業者と買受業者の双方に伝票(「仕切書」「計算書」など)を印刷して提供するため、漁獲・陸揚げ情報の多くを電子的に記録しています。 このデータを活かして、事業者間で電子的にデータや証明書を伝達し、より効率的に規制へ対応することが課題と言えます。

 その解決策となるのがCALDAPです。


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  水産物トレーサビリティ協議会    Japanese Association of Seafood Traceability

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