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食品流通研究  2002年冬号(No.2)

内容紹介

巻頭言

調査報告

  • 北海道における非遺伝子組み換え牛乳の現状と課題/矢坂 雅充・・・2  要約
  • 青果物卸売市場の機能分化の実態について/江端 一成・・・17  要約
  • 日本と欧米における卸売市場制度の比較/酒井 純・・・24  要約
  • 食品の技術開発における課題と今後の方向性/長谷川 潤一・・・37  要約

食品産業統計

  • 食品産業景況・食品工業生産指数・加工食品輸入指数・加工食品小売動向・・・49

仕様

発行日  平成14年1月20日
編集/発行  社団法人 食品需給研究センター
60ページ
在庫なし

本文

巻頭言
Food・Wood・Goods Mileage(フード・ウッド・グッヅ マイレージ)

篠原 孝(農林水産政策研究所 所長)


京都議定書をめぐる議論が賑やかである。ヨーロッパが、経済成長などよりも地球生命全体の危機を感じとって、CO2の排出を1990年レベルに戻そうとしているのに対し、アメリカは大反対し、日本もどうもなまくらな態度である。

この問題は、何も煙をもくもくと出す煙突型産業だけのものではなく、我々一人一人の生き方の問題でもある。例えば、輸送に伴う汚染もその一つである。飛行機、大型トラックの汚染度合が高く、鉄道や船は少ないのは承知のとおりである。そうなると、世界中どこで獲れても「成田漁港」に直行する本マグロやミナミマグロは、環境面からみるとかなり背徳的な食料であることがわかってくる。世を挙げて国際化、グローバリゼーションの大合唱であり、相変わらず自由貿易、市場原理が幅を効かしているが、CO2の排出を削減するには、物の移動をなるべく少なくするにこしたことはないはずである。

こうした自明の理を1994年、イギリスの消費者運動家ティム・ラングがFood Milesという概念を用いて標榜し出した。自分の食卓に並んだ食べ物が、どれだけ遠くから運ばれてきたかを考えて、なるべく少なくするよう努力すべきだというのである。日本流に言えば「身土不二」、「地産地消」である。私は日本では航空会社のマイレージプランが広まっていることを考慮してFood Mileageとして使い始め、朝日新聞の「私の視点」(2001年5月18日)で紹介した。当然、様々な反応があったが、その中に木材の輸入こそ大問題であり、普通の家一戸を国産材と外材で建てた時のWood Mileageを計算してください、という要請を受けた。家の場合は、木材の使用量も把握できるので、重量×距離(t・km)がわかり、これで輸送中の環境負荷も算入して両者を比較することができる。食料は食卓での重量は小さすぎてt・kmでは比較しても始まらないが、国全体としては十分に比較可能であり、当研究所で目下計算中である。世界の交易量が約50億tある中で、日本は輸入量が7億t、輸出量がその1割の7000万tで計約8億tとなり、世界全体の6分の1を占めている。

アメリカは、貿易金額の収支は慢性的に赤字だが、物量ベースでみると輸出入とも3億tで均衡を保っており、最大の貿易パートナーはカナダである。また、EUは、農産物の域内優先に代表されるがごとく、何かにつけてEU域内で回していこうとしており、貿易を伴う輸送距離は大して大きくはない。それに対し、日本は世界中からの安い原材料を買い漁り、そこら中に工業製品を輸出している。我々は、貿易といっても金額ベースでしか考えず、物量(重量)ベースなどすっかり忘れている。まして、輸送距離のことなどとんと頭にはない。しかし、もし世界の物の移動を重量×距離で測ったら――これはGoods(物)Mileageとでもいうことになる――、それこそ世界全体の半分を占めることに違いない。地球に優しい生き方が求められている折、輸送に伴う汚染の削減についても考えなければならないことである。

調査報告
北海道における非遺伝子組み換え牛乳の現状と課題(要約)

矢坂 雅充(東京大学大学院経済学研究科)


近年、日本でも本格的な取り組みがなされるようになってきた「非遺伝子組み換え飼料を使用した牛乳」の市場は、従来の生乳・牛乳市場とは異なった特質をもっている。@川上部門である飼料から牛乳処理製造、消費者への販売といった川下部門に至るまでの「分別管理」、A分別管理による品質への信頼性を担保するための一貫した「トレーサビリティ・システム」、B酪農・乳業における生産・流通コスト、経営リスク増大と消費者の「安心」へのニーズの調整、C生産者団体あるいは乳業メーカーに要請される市場全体のコーディネーター機能などである。「信頼」と「安全」への消費者のニーズに対応した農産物・食品流通の課題が、非遺伝子組み換え牛乳市場の成立過程をとおして検証される。

調査報告
青果物卸売市場の機能分化の実態について

江端 一成(食品需給研究センター)


産地の大型化による出荷先の集約化やスーパーの台頭による小売構造の再編などにより、卸売市場はこうした産地や小売業者に対応できる大規模卸売市場とそれが困難な小規模卸売市場とに分化する傾向にある。新潟県の青果物卸売市場は集分荷構造の違いから、「拠点市場」、「準拠点市場」、「中小市場」の3タイプの市場に区分できる。「拠点市場」は市場のグループ化による経営規模の大型化を推進し、「準拠点市場」は他社と業務提携を模索しつつも、地場流通の推進など特徴的な経営を行っている。規模が小さな「中小市場」は集荷では転送に依存する割合が高く、販売先が減少する傾向にあるが効率的な経営により生き残りをかけている。

調査報告
日本と欧米における卸売市場制度の比較
――「海外卸売市場制度調査」から――

酒井 純(食品需給研究センター)


欧米の卸売市場制度は、卸売市場の開設に関する制度が中心であり、日本のような民間業者の参入規制や取引方法に関する規制は少ない。日本の卸売市場制度の特色を確認するための比較対象として有用と考えられる。欧米の卸売市場流通の占める地位は、大手スーパー・チェーンによる直接取引の発達の影響から一般に低下しているが、卸売市場所有・運営の第三セクターや民間への移行など、日本の卸売市場制度の将来を考える上で参考となる事例が見られる。

調査報告
食品の技術開発における課題と今後の方向性
――機能性食品を対象に考察――

長谷川 潤一(食品需給研究センター)


機能性食品分野では、これまで物理化学的技術手法を用いた素材開発、利用効率の向上等が実施されてきたが、今後は、バイオテクノロジー(生物工学技術)など生物化学的手法を駆使し、機能性成分が生体に寄与するメカニズム解明など、新規の技術開発手法の確立が求められている。また、バイオテクノロジーなど新たな技術開発手法を現在の試験系に導入するには、所有する知識の多角化など、これまでの企業単独による技術開発体制では技術開発の達成が困難と考えられる。このことに対応しうる新たな研究体制の構築が求められる中、今後は産官学共同における技術連携が重要なファクターとなりうる。

一般社団法人食品需給研究センター    Food Marketing Research and Information Center

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